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交通事故は「その瞬間」から手続きが始まります。考える余裕はほとんどありません。
警察庁の統計(2024年)によると、交通事故の発生件数は年間約38万件、負傷者数は約46万人です。事故直後のパニック、警察の聴取、保険会社からの電話、病院の受診――一度に押し寄せる対応に、何から手をつければいいのかわからなくなるのは当然です。しかし、初動を間違えると補償額が数十万円単位で変わることがあります。
特に深刻なのが「物損のまま放置」するパターンです。事故後に痛みを感じていても、面倒だからと人身事故への切替をしなかった結果、慰謝料を請求できなくなるケースが後を絶ちません。

この記事では、事故直後から示談成立まで、時系列で手続きを整理しています。ただし事故の状況(被害者か加害者か、けがの有無、保険の加入状況)によって必要な手続きは大きく変わります。下のツールで6つの質問に答えると、あなたの状況に合った手続きだけを抽出できます。

事故直後 ― 最初の30分が全てを決める
事故が起きたら、まず「けが人の救護」と「安全確保」です。ハザードランプ、発煙筒、三角表示板で二次事故の防止が最優先です。そのうえで、以下の2つを確実に行ってください。
警察への届出(110番通報) 法定手続き
これは義務であり選択肢ではありません。届出を怠ると3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金です。「物損だから」「大したことないから」は通用しません。なぜなら、警察に届出しないと交通事故証明書が発行されず、保険金を1円も請求できなくなるからです(道路交通法第72条第1項)。
自分の保険会社への連絡
事故当日中に連絡するのが理想です。保険証券の番号、事故届出番号、相手方の情報(氏名・車両ナンバー・保険会社名)を伝えてください。このとき必ず確認してほしいのが「弁護士特約」の有無です。あるなら、のちの示談交渉で費用負担なく弁護士に依頼できます(保険法第14条)。

追突されました。相手が「警察を呼ばずに修理代を払うから」と言っています。応じていいですか。

絶対に応じないでください。理由は3つ。(1) 後から痛みが出ても因果関係を証明できない、(2) 交通事故証明書がないと保険金を請求できない、(3) 相手が約束を守らなくても証拠が残らない。警察への届出は道路交通法第72条で定められた法的義務です。
1週間以内 ― 「あとでいいか」が命取りになる時期
医療機関の受診・診断書の取得
少しでも痛みや違和感があるなら、3日以内に整形外科を受診してください。「翌日になったら痛くなってきた」はむち打ちの典型パターンです。事故から日数が空くほど「事故との因果関係」を立証しにくくなります。診断書は警察提出用と保険請求用で最低2通必要です。
交通事故証明書の取得
自動車安全運転センターに申請します。手数料は1通1,000円です。ネット申請(e-jikoshomei.jp)も可能です。保険請求に必須の書類で、警察への届出から1~2週間後に取得できます。複数通取得しておくと安心です(自動車安全運転センター法第29条)。
人身事故への切替届出
けがをしているなら、診断書を持って警察署へ届け出てください。事故から10日以内が目安です。物損事故のままだと何が起きるか――加害者に行政処分・刑事処分がなく、実況見分調書が作成されず、慰謝料を請求するのが極めて困難になります(道路交通法第72条第1項)。
車両の修理・買替えの手配
修理前に必ず保険会社の了承を得てください。勝手に修理すると保険金が支払われない場合があります。修理費が車両の時価額を超えると「全損」扱いで、時価額までしか補償されません。複数の修理工場から見積もりを取るのが基本です。
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治療中 ― 通院を途切れさせないことが重要
治療費・休業損害の請求
治療費は相手方保険会社が病院に直接支払う「一括対応」が一般的です。休業損害は、けがで仕事を休んだ期間の収入減少分です。意外と知られていませんが、主婦(主夫)も「家事従事者」として休業損害を請求できます(1日あたり約6,100円~)。通院交通費も対象です(民法第709条)。

保険会社から「そろそろ治療を終了してください」と言われました。まだ痛みがあるのですが、従うべきですか。

治療を終了するかどうかを決めるのは医師であり、保険会社ではありません。まだ治療が必要と医師が判断しているなら、その旨を保険会社に伝えてもらいましょう。一括対応を打ち切られても、自費で通院を続けて後から請求する方法もあります。打ち切りを迫られた時点で弁護士に相談するのが得策です。
後遺障害等級認定の申請(重傷・後遺症がある場合)
これ以上治療しても改善しない状態(症状固定)になったら、主治医に後遺障害診断書を書いてもらいます。等級は1~14級です。むち打ちの14級でも慰謝料110万円、12級なら290万円(弁護士基準)です。保険会社経由の「事前認定」より自分で申請する「被害者請求」の方が有利な結果を得やすいです(自動車損害賠償保障法施行令第2条)。
示談交渉 ― 「焦って合意」が最大のリスク
示談交渉
治療が全て終わり、損害額が確定してから始めます。示談は一度成立したら原則やり直しができません。保険会社が提示する金額(任意保険基準)は、弁護士基準の半分以下であることも珍しくありません。時効は物損3年、人身5年です(民法第724条・第724条の2)。
弁護士への相談
「弁護士に頼むほどの事故じゃない」と思うかもしれませんが、弁護士が入るだけで慰謝料が2~3倍になることは珍しくありません。弁護士特約があれば300万円まで費用を保険でカバーできるのに、使わずに示談してしまう人が非常に多いです。

慰謝料の3つの基準を覚えておいてください。自賠責基準(最低限)< 任意保険基準(保険会社の提示額)< 弁護士基準(裁判で認められる金額)です。保険会社は真ん中の基準で提示してくるので、そのまま合意すると損をする可能性があります。
慰謝料の3基準を具体的な金額で比較▼
むち打ち(他覚所見なし)で通院6ヶ月(実通院90日)のケース。
| 基準 | 入通院慰謝料(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| 自賠責基準 | 約39万円 | 最低保障。日額4,300円で計算 |
| 任意保険基準 | 約50〜60万円 | 保険会社独自の算定。非公開 |
| 弁護士基準(裁判基準) | 約89万円 | 「赤い本」(民事交通事故訴訟)基準 |
弁護士基準は自賠責基準の約2.3倍です。弁護士特約があれば費用負担なくこの基準で交渉できます。
パターン別 ― 状況によって対応が変わる
被害者の場合
相手方保険会社から連絡が来ますが、安易に過失割合や示談額に合意しないでください。相手の保険会社はあなたの味方ではありません。録音・記録を残す習慣をつけましょう。相手が無保険の場合は、自賠責保険への被害者請求(自動車損害賠償保障法第16条)が生命線になります。
物損事故のみの場合
けが人がいなくても、必ず警察に届け出てください。交通事故証明書がないと保険金を請求できません。修理か買替えかは「修理費用 vs 車両の時価額」で判断します。時効は事故日から3年です(民法第724条)。
けがをした場合(人身事故)
「大丈夫だと思った」が最も危険です。むち打ちは翌日~数日後に症状が出ることが多いです。3日以内に受診し、10日以内に人身事故への切替を済ませてください。通院は途切れなく続けましょう。
過失割合の基本パターン(判例タイムズ基準)▼
過失割合は「別冊判例タイムズ38号」の基本過失割合をベースに、修正要素(速度超過、飲酒運転、著しい過失等)で加減算されます。
| 事故類型 | 基本過失割合 |
|---|---|
| 追突(停車中) | 追突した側 100 : 0 |
| 信号のある交差点(直進同士、一方が赤信号) | 赤信号側 100 : 0 |
| 右折車と直進車(同一方向、青信号) | 右折車 80 : 直進車 20 |
| 信号のない交差点(同幅員の道路) | 左方車 40 : 右方車 60 |
提示された過失割合に納得できない場合は、ドライブレコーダー映像や目撃証言を根拠に交渉できます。弁護士に依頼すると修正要素の適用で有利になるケースが多いです。
交通事故手続き一覧表
| 手続き名 | 届出先 | 期限・目安 |
|---|---|---|
| 警察への届出 | 管轄警察署(110番) | 事故直後(法定) |
| 自分の保険会社への連絡 | 保険会社 | 事故当日 |
| 医療機関の受診・診断書取得 | 整形外科等 | 3日以内(推奨) |
| 交通事故証明書の取得 | 自動車安全運転センター | 1週間以内 |
| 人身事故への切替届出 | 管轄警察署 | 10日以内(推奨) |
| 車両の修理・買替え | 修理工場・ディーラー | 2週間以内(推奨) |
| 相手方保険会社との対応 | 相手方保険会社 | 2週間以内 |
| 治療費・休業損害の請求 | 相手方保険会社 | 治療中随時 |
| 自賠責保険への被害者請求 | 相手方自賠責保険会社 | 時効3年以内 |
| 後遺障害等級認定の申請 | 自賠責保険会社 | 症状固定後 |
| 弁護士への相談 | 法律事務所・法テラス | 随時(早めが有利) |
| 示談交渉 | 保険会社間 / 当事者間 | 治療完了後 |
まとめ
交通事故の手続きは、初動のスピードと正確さが補償額を大きく左右します。冷静でいることは難しいですが、この3つだけは覚えておいてください。
1. 警察への届出は義務。物損でも必ず届け出ること。届出がないと交通事故証明書が発行されず、保険金を1円も受け取れません。
2. けがをしたら3日以内に受診、10日以内に人身切替。この2つを逃すと、慰謝料請求が極めて困難になります。
3. 示談は治療が全て終わってから。保険会社の提示額は弁護士基準の半分以下のこともあります。弁護士特約があるなら使わない理由はありません。
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