「親の介護、何から始めればいいのかわからない」。多くの人が最初にぶつかるのは、手続きの多さと順番への戸惑いです。
介護に伴う手続きは、認定申請からサービス開始まで最大15件にもなります。しかも、要介護認定を受けないと介護保険サービスは使えません。ケアマネジャーを選ばないとケアプランが作れません。順番を間違えると、サービス開始が1ヶ月以上遅れることもあります。
ただ、知っておいていただきたいのは、介護の手続きには「最初に相談すべき場所」が明確に決まっているということです。そこに連絡すれば、何をすべきか、どこに行けばいいかを全部教えてもらえます。
この記事では、介護が必要になったときの手続きを時系列順に整理し、特に初めての方が迷いやすいポイントに絞って解説します。

ステップ1:まず地域包括支援センターに電話する
介護で最初にすべきことは、ネットで調べることではありません。地域包括支援センターに電話することです。
地域包括支援センターへの相談
高齢者の介護・福祉に関する総合相談窓口です。保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーが常駐し、「何から始めればいいか」を具体的に教えてくれます。要介護認定の申請代行も依頼できます。相談は無料です。場所は市区町村の介護保険課やWebサイトで確認できます(介護保険法 第115条の46)。

親が転倒して入院しました。退院後は一人暮らしに戻れそうにないのですが、何から始めればいいですか。

まず親御さんのお住まいの地域包括支援センターに電話してください。「市区町村名 + 地域包括支援センター」で検索すれば出てきます。入院中でも相談できますし、要介護認定の申請代行も頼めます。入院中に申請しておけば、退院後すぐにサービスを使える体制を整えられます。
要介護認定の申請
介護保険サービスを利用するための最初の公式手続きです。市区町村の介護保険課に申請します。ポイントは申請日に遡ってサービスを利用できることです。結果が出るまで原則30日かかるため、「まだ早いかも」と思っても、とにかく早く申請してください。65歳以上なら原因を問わず申請可能です。40〜64歳は特定疾病(16疾病)に該当する場合のみです(介護保険法 第27条)。
ステップ2:認定調査を受ける
認定調査への対応
市区町村の調査員が自宅(入院中なら病院)を訪問し、心身の状態を調査します。約1時間です。ここで重要なのが、家族が必ず同席することです。本人は調査員の前で「大丈夫です、できます」と言いがちですが、普段の様子と違う場合は家族が補足説明する必要があります。事前に「こんな場面で困っている」をメモにまとめておくとよいです(介護保険法 第27条第2項)。

認定調査の日に限って父がシャキッとしていて、普段できないことまで「できます」と答えてしまいました。結果が想定より軽い認定でした。やり直しはできますか。

結果に納得がいかなければ「区分変更申請」ができます。不服申立て(都道府県の介護保険審査会、3ヶ月以内)もありますが、区分変更申請のほうが早くて実用的です。次回は普段の様子をメモに書き出しておき、調査員に直接渡すのが効果的です。
要介護認定の結果通知と確認
申請から原則30日以内に結果が届きます。認定区分は「非該当」「要支援1〜2」「要介護1〜5」の8段階です。結果に納得がいかない場合は、都道府県の介護保険審査会に不服申立て(通知の翌日から3ヶ月以内)や、区分変更申請もできます(介護保険法 第27条第11項)。
要介護度ごとの区分支給限度額(月額)を見る▼
| 認定区分 | 区分支給限度額(月額) | 自己負担1割の場合 |
|---|---|---|
| 要支援1 | 50,320円 | 約5,032円 |
| 要支援2 | 105,310円 | 約10,531円 |
| 要介護1 | 167,650円 | 約16,765円 |
| 要介護2 | 197,050円 | 約19,705円 |
| 要介護3 | 270,480円 | 約27,048円 |
| 要介護4 | 309,380円 | 約30,938円 |
| 要介護5 | 362,170円 | 約36,217円 |
出典: 厚生労働省「介護報酬の算定構造」(2024年度改定)。限度額を超えた分は全額自己負担になります。
ステップ3:ケアマネジャーを選んでサービスを開始する
ケアマネジャー(介護支援専門員)の選定・契約
ケアマネジャーは介護サービスの計画と調整を担う「介護生活のプロデューサー」です。地域包括支援センターで事業所リストをもらい、自宅から近い事業所を選ぶのが基本です。大事なのはケアマネジャーへの報酬は全額介護保険負担で、利用者の自己負担はゼロということです。合わないと感じたら変更も可能です(介護保険法 第46条)。
ケアプラン(介護サービス計画)の作成
ケアマネジャーが自宅を訪問し、本人・家族の希望を聞き取って、利用するサービスの種類・回数・時間帯を決めます。ケアプランの作成費用も自己負担はありません。「週2回のデイサービス」「毎日の訪問介護」「月1回のショートステイ」など、生活に合わせて自由に組み立てられます(介護保険法 第47条)。
介護サービスの利用開始
ケアプランに基づいて各事業所と契約し、サービスの利用を開始します。主な在宅サービスは、訪問介護(ホームヘルパー)、訪問看護、通所介護(デイサービス)、短期入所(ショートステイ)、福祉用具レンタルなどです。サービス開始後もケアプランの見直しは随時可能です(介護保険法 第41条)。
介護にかかる費用の目安
生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(2024年度)によると、介護にかかる費用の平均は以下のとおりです。
一時的な費用(住宅改修等)
74万円
平均
月々の費用
8.3万円
平均
介護期間
5年1ヶ月
平均
出典: 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」
月8.3万円が5年以上続くと、トータルで約580万円になります。ただし介護保険を正しく使えば自己負担は大幅に減らせます。以下の制度は必ず確認しておいてください。
働きながら介護する場合
仕事と介護の両立は、制度を知っているかどうかで負担が大きく変わります。総務省「就業構造基本調査」(2022年)によると、介護をしている人は約629万人で、うち約365万人が仕事をしながら介護をしています。一方、介護離職は年間約10.6万人にのぼります。
介護休業の申出(会社員・パートの場合)
対象家族1人につき通算93日まで、最大3回に分割して取得できます。要介護認定がなくても、2週間以上常時介護が必要な状態なら取得可能です。事業主は原則拒否できません。介護体制を整えるための「準備期間」として使うのが効果的です(育児・介護休業法 第11条)。
介護休業給付金の申請(雇用保険加入者のみ)
介護休業中に休業開始時賃金日額の67%がハローワークから支給されます。通常は勤務先が代行申請します。申請は休業終了日の翌日から2ヶ月以内です(雇用保険法 第61条の4)。
介護休暇の取得(会社員・パートの場合)
年5日(対象家族2人以上なら年10日)、1時間単位で取得可能です。通院の付き添い、ケアマネジャーとの打ち合わせなど短時間の用事に使えます。介護休業(93日)とは別枠です。有給か無給かは会社の規定によります(育児・介護休業法 第16条の5)。

介護休業は93日しかありません。介護が何年も続いたら全く足りないのでは。

介護休業の93日は「自分で介護するための日数」ではなく、「介護体制を整えるための日数」として使うのが正しい使い方です。この期間にケアマネジャーを選び、サービスを立ち上げ、仕事との両立体制を作ります。日常的な介護はプロに任せ、自分は「マネジメント」に徹するのが長続きの秘訣です。
必要に応じて対応すること
- 介護保険負担割合証の確認 ― 自己負担割合(1割・2割・3割)は本人の所得で決まります。65歳以上で合計所得160万円未満なら1割です(介護保険法 第49条の2)。
- 高額介護サービス費の支給申請 ― 月の自己負担額が上限を超えた場合、超過分が払い戻されます。住民税非課税世帯は月24,600円、一般は月44,400円が上限です。初回のみ申請が必要です(介護保険法 第51条)。
- 障害者控除対象者認定の申請 ― 要介護認定を受けた65歳以上の方は、障害者手帳がなくても所得税の障害者控除(27万円)を受けられる場合があります。意外と見落としやすい制度です(所得税法 第79条)。
- 成年後見制度の利用検討 ― 認知症で判断能力が低下した場合、預貯金の管理や契約行為を代行する制度です。申立ては家庭裁判所で行います。費用は約1万円+鑑定費用5〜10万円です(民法 第7条〜第21条)。
- 介護施設への入所検討 ― 特養(原則要介護3以上、費用が安いが待機あり)、老健(在宅復帰が目的)、グループホーム(認知症対応)、有料老人ホーム(費用は高いが選択肢豊富)があります(介護保険法 第48条)。
高額介護サービス費の自己負担上限額を見る▼
| 所得区分 | 月額上限 |
|---|---|
| 生活保護受給者 | 15,000円(個人) |
| 住民税非課税世帯(年金80万円以下等) | 15,000円(個人)/ 24,600円(世帯) |
| 住民税非課税世帯(上記以外) | 24,600円(世帯) |
| 一般(住民税課税世帯) | 44,400円(世帯) |
| 現役並み所得(年収約383万円〜約770万円) | 44,400円(世帯) |
| 現役並み所得(年収約770万円〜約1,160万円) | 93,000円(世帯) |
| 現役並み所得(年収約1,160万円以上) | 140,100円(世帯) |
出典: 厚生労働省「高額介護サービス費の負担限度額」(2021年8月改定)。初回のみ市区町村へ申請が必要で、以降は自動で払い戻されます。
パターン別の注意点
急に介護が必要になった場合(入院・転倒など)
突然のことで気が動転するのは当然です。でも、やることの順番は決まっています。
- まず地域包括支援センターに電話。何から始めればいいか教えてくれます。認定申請の代行も依頼できます。
- 入院中に要介護認定を申請。結果まで約30日かかるため、入院中に申請しておけば退院後すぐにサービスを使えます。認定調査は病院でも実施可能です。
- 退院前カンファレンスへの参加。病院の医療ソーシャルワーカーが退院後の生活について調整してくれます。ケアマネジャーの紹介を受けられることも多いです。
遠距離介護の場合
親が遠方に住んでいても、介護は可能です。ただし、現地のサポート体制を作ることが不可欠です。
- 地域包括支援センターとの連携が鍵。離れていても電話で相談できます。緊急時の連絡体制を整えておきましょう。
- 介護休暇を活用する。年5日の介護休暇は1時間単位で取得可能です。手続きや通院の付き添いに使えます。
- 施設入所も選択肢に。介護者の近くの施設への入所も可能です。住所地特例制度により、元の自治体の介護保険が引き続き使えます。

特別養護老人ホームは待機が多いと聞きます。申し込んでからどのくらい待つのでしょうか。

厚生労働省の調査では、特養の入所待機者は全国で約25.3万人(2024年4月時点)。地域差が大きく、都市部では数年待ちのケースもあります。要介護度が高い方が優先されるので、複数施設に同時に申し込むのが基本です。待機中はショートステイやデイサービスを活用しましょう。
介護手続き一覧表
| 手続き名 | 届出先 | 期限・目安 |
|---|---|---|
| 地域包括支援センターへの相談 | 地域包括支援センター | まず最初に |
| 要介護認定の申請 | 市区町村の介護保険課 | できるだけ早く |
| 認定調査への対応 | 自宅/病院で実施 | 申請後(日程調整あり) |
| 認定結果の通知・確認 | 郵送で届く | 申請後 原則30日以内 |
| ケアマネジャーの選定 | 居宅介護支援事業所 | 認定後すぐ |
| ケアプランの作成 | ケアマネジャーが訪問 | ケアマネ選定後 |
| 介護サービスの利用開始 | 各介護サービス事業所 | ケアプラン完成後 |
| 介護休業の申出 | 勤務先の人事・総務 | 休業2週間前まで |
| 介護休業給付金の申請 | 勤務先経由でハローワーク | 休業終了後2ヶ月以内 |
| 介護休暇の取得 | 勤務先の人事・総務 | 随時(年5日まで) |
| 負担割合証の確認 | 市区町村の介護保険課 | 認定結果と同時 |
| 高額介護サービス費の申請 | 市区町村の介護保険課 | 上限超過時(初回のみ申請) |
| 障害者控除対象者認定 | 市区町村の介護保険課 | 確定申告時期に毎年 |
| 成年後見制度の申立て | 家庭裁判所 | 必要な場合 |
| 介護施設への入所検討 | 各介護施設/ケアマネ | 必要な場合 |
まとめ
介護の手続きは確かに多いです。でも、最初の一歩は「電話1本」です。
1. まず地域包括支援センターに電話。何から始めるべきか教えてくれます。認定申請の代行も頼めます。相談は無料です。
2. 要介護認定は「早すぎ」はない。結果まで30日かかります。申請日に遡ってサービスを使えます。
3. ケアマネジャーの費用はゼロ。ケアプランの作成も含め自己負担はありません。遠慮せずプロの力を借りましょう。
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