「半壊と判定されて支援金がもらえなかった」「保険金で無料修理できると言われて契約したら、高額な違約金を請求された」──これらは自然災害の被災後に実際に起きているトラブルです。国民生活センターによると、「保険金が使える」と勧誘する住宅修理サービスの相談件数は2008年の36件から2017年には1,177件と30倍以上に急増し、その後も高い水準が続いています(国民生活センター PIO-NET)。
被災後は生活再建に精一杯で、支援制度の細かなルールまで気が回らないのは当然のことです。しかし、「知っていれば防げた」トラブルは多く、罹災証明書の判定への不服申立て、支援制度の申請漏れ、悪徳業者への対処法など、情報があるだけで結果が大きく変わるポイントがあります。
この記事では、被災後に起きやすい7つのトラブルとその具体的な対策を、実際の事例・法的根拠・相談窓口とともに解説します。
トラブル1:罹災証明書の判定に不服がある
罹災証明書の被害認定は「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「一部損壊」の6区分に分かれ、区分によって受けられる支援制度と金額が大きく異なります(災害対策基本法第90条の2)。たとえば被災者生活再建支援金は全壊で最大300万円ですが、一部損壊では対象外です。
実例:「半壊」判定が再調査で「大規模半壊」に変更

地震で自宅が大きな被害を受けたのに、第1次調査(外観目視)では「半壊」と判定されました。室内は壁に大きなひび割れが何本も走り、基礎部分にも損傷があったのに、外観だけでは判断してもらえなかったのです。再調査を申請したところ、建物内の立入調査が行われ、「大規模半壊」に変更されました。受けられる支援金が大幅に増え、住宅再建の見通しが立ちました。

福島県矢吹町の東日本大震災の事例では、2次調査で約30%のケースで判定が上がったと報告されています(判定変更なし91件・判定上昇43件・判定低下10件)。第1次調査は外観目視のみですが、再調査では室内の立入調査が行われるため、隠れた被害が認定されやすくなります。
出典: 矢吹町 住家被害認定調査 2次調査結果、内閣府「災害に係る住家の被害認定」
再調査を申請する際のポイント
1. 修理前に被害箇所を写真・動画で記録してください。日付入りで撮影し、外観だけでなく室内・床下・基礎部分も撮影しましょう。修理後では被害の証明が極めて難しくなります。
2. 再調査は別の調査員が行うため、結果が変わる可能性があります。
3. 再調査でも納得できなければ、再々調査の申請も可能です。
4. 罹災証明書の申請は被災後なるべく早く行いましょう。調査までに時間がかかる場合は、先に「被災届出証明書」を取得すれば各種支援の仮申請に使えます(災害対策基本法第90条の2第2項)。
トラブル2:火災保険・地震保険の支払いトラブル
2024年の能登半島地震では、地震保険の支払件数は約12万7,000件、支払保険金は約1,047億円にのぼりました(日本損害保険協会 2024年3月末時点)。一方で、保険金に関するトラブルも多く発生しています。
実例:火災保険に入っていたのに「地震」だから対象外

地震で自宅の壁にひびが入り、屋根瓦が落ちました。火災保険に加入していたので安心していたのですが、保険会社に連絡したところ「地震による被害は火災保険では補償されません。地震保険に加入していません」と言われました。地震保険が別契約だとは知りませんでした。

火災保険は風災・水災・雪災をカバーしますが、地震・噴火・津波による被害は対象外です。地震保険は火災保険に付帯して加入する必要があり、単独では契約できません。保険金請求の時効は3年です(保険法第95条)ので、被災したらすぐに保険会社へ連絡してください。
保険金トラブルへの対処法
1. 被災後はすぐに保険会社に連絡してください(保険法第14条:損害発生の通知義務)。
2. 被害状況を写真・動画で記録し、修理の見積書を取得しましょう。
3. 保険金額に納得できない場合は、そんぽADRセンター(日本損害保険協会の紛争解決機関、0570-022-808)に相談できます。
4. 保険証券が見つからなくても、保険会社や代理店に問い合わせれば契約内容を確認できます。
5. 次の更新時に地震保険の付帯を検討しましょう。
トラブル3:悪徳修理業者による被害
国民生活センターによると、「保険金が使える」と勧誘する住宅修理サービスのトラブル相談は、2008年の36件から2017年には1,177件に急増し、約30倍以上に増加しています。60歳以上の高齢者が被害者の約75〜80%を占めており、災害直後の混乱に乗じた悪質な勧誘が後を絶ちません。
実例:「保険金で無料修理」のはずが高額請求

台風の翌日、「保険金で全額まかなえるので自己負担ゼロで屋根を修理できます」と訪問してきた業者と契約しました。ところが実際には保険金では足りず、保険金の30%にあたる手数料まで取られました。キャンセルしようとしたら高額な違約金を請求され、どうにもなりません。

訪問販売の場合はクーリングオフが適用されます。契約書面を受け取った日から8日間以内であれば、無条件で契約を解除できます(特定商取引法第9条)。8日を過ぎていても、契約書面に不備があればクーリングオフ期間が進行していない可能性もあります。まずは消費者ホットライン188番に相談してください。
出典: 国民生活センター 2018年9月「保険金を使って住宅を修理しませんか」に関する注意喚起、2022年6月「被災地域は特に注意!災害後の住宅修理トラブル」
悪徳業者を見分けるポイント
1. 訪問勧誘にはその場で契約しないでください。「今日中に契約しないと」は典型的な手口です。
2. 必ず複数の業者から見積もりを取りましょう。
3. 地元の工務店や自治体が紹介する業者を優先してください。
4. 「保険金で全額無料」という業者は要注意です。保険金の使い道は被災者が自由に決められるものです。
5. 不審な業者に遭遇したら消費生活センター(188番)に相談しましょう。
トラブル4:支援制度の申請漏れ
被災者が利用できる支援制度は非常に多く、そのほとんどが「申請しなければ受けられない」仕組みです。制度を知らなかったために、本来受けられるはずの支援を取りこぼしてしまうケースが少なくありません。
知らないと損する主な支援制度
| 制度名 | 支給額 | 対象・条件 | 申請期限 |
|---|---|---|---|
| 被災者生活再建支援金(基礎) | 最大100万円 | 全壊・解体・長期避難 | 13か月以内 |
| 被災者生活再建支援金(加算) | 最大200万円 | 再建方法に応じて | 37か月以内 |
| 災害弔慰金 | 最大500万円 | 災害で死亡した遺族 | 自治体に確認 |
| 災害障害見舞金 | 最大250万円 | 災害で重度障害 | 自治体に確認 |
| 住宅の応急修理制度 | 最大70.6万円 | 半壊以上 | 災害発生から1か月程度 |
| 災害援護資金(貸付) | 最大350万円 | 所得制限あり | 自治体に確認 |
| 雑損控除(確定申告) | 所得から控除 | 災害による損失 | 翌年3月15日 |
出典: 内閣府「公的支援制度について」、被災者生活再建支援法第3条、災害弔慰金の支給等に関する法律第3条・第8条、災害救助法第4条、所得税法第72条
被災者生活再建支援金の最大支給額(被害区分別)
罹災証明書の判定区分が1段階変わるだけで、支給額に100万円以上の差が出ます。再調査の申請を検討する価値は大きいです。

2020年の法改正で「中規模半壊」が被災者生活再建支援金の対象に追加されました(令和2年法律第69号)。以前は対象外だった方も支援を受けられる可能性があります。制度ごとに申請期限が異なるため、市区町村の災害対策窓口で「自分が利用できる支援制度の一覧」を早めに確認してください。
トラブル5:応急修理制度と仮設住宅の併用不可
意外と知られていないトラブルが、住宅の応急修理制度と応急仮設住宅の原則併用不可という問題です。どちらかを選ぶと、もう一方が利用できなくなる場合があります。
実例:応急修理を選んだら仮設住宅に入れなくなった

住宅の応急修理制度(上限70.6万円)を利用して自宅の修理を始めました。しかし上限額では到底足りず、住める状態にならないことが途中で分かりました。仮設住宅への入居を申請しましたが、「応急修理制度を利用しているので原則入居できません」と言われ、途方に暮れました。

災害救助法の原則では、応急修理制度と仮設住宅はどちらか一方しか利用できません。ただし、近年の運用改善で、応急修理に時間がかかる場合に限り、修理完了までの間は仮設住宅への入居を認めるケースが増えています。能登半島地震では一部の自治体で併用が認められました。選択に迷ったら、必ず市区町村の窓口で「どちらを選ぶとどうなるか」を確認してから判断してください。
出典: 内閣府「住宅の応急修理」(災害救助法第4条第1項第7号)、石川県 能登半島地震の応急修理制度運用
応急修理制度の上限額
半壊以上:1世帯あたり最大706,000円。準半壊:最大343,000円。対象は屋根・壁・床・窓・台所・トイレなど日常生活に必要不可欠な最小限の部分に限られます。上限を超える分は自己負担となります。
トラブル6:義援金詐欺・災害便乗詐欺
大きな災害が発生すると、義援金を装った詐欺が必ず発生します。2024年の能登半島地震では、「市が義援金を集めている」という不審な電話や、支援品を求める不審な訪問に関する相談が国民生活センターに多数寄せられました。国民生活センターは2024年の消費者問題10大項目の第1位に「能登半島地震関連の災害便乗商法」を挙げています。
実例:公的機関を名乗る不審な電話

「市役所の災害対策課です。義援金の振込先口座を教えてほしい」という電話がかかってきました。市役所の番号ではなく携帯電話からで、不審に思い切りました。後日、同様の電話が近所でも複数件あったと知りました。

公的機関が個別に電話やメールで義援金や寄付を求めることは絶対にありません(消費者庁・金融庁による注意喚起)。義援金は市区町村の窓口か、日本赤十字社や共同募金会などの公的団体を通じて送ってください。不審な電話は相手にせず、警察(#9110)または消費者ホットライン(188番)に通報してください。
出典: 消費者庁「震災に関する義援金詐欺に御注意ください」、国民生活センター 2024年1月・8月発表
トラブル7:災害関連死の認定をめぐる問題
災害による直接の死亡だけでなく、避難生活の負担や持病の悪化によって亡くなった場合は「災害関連死」として認定され、災害弔慰金(最大500万円)の支給対象になります。しかし、この制度を知らなかったり、認定の申請方法が分からず断念してしまうケースがあります。
統計から見る災害関連死の深刻さ
災害関連死の統計データ
東日本大震災では災害関連死が3,802人にのぼり(2024年3月時点)、直接死15,900人の約24%に相当します。熊本地震では直接死50人に対し災害関連死が215人で、直接死の4倍以上でした。能登半島地震でも2025年3月時点で280人以上が災害関連死に認定されています。全体の約78〜81%が発災後3か月以内に発生しており、避難生活の初期段階が最も危険です。

災害弔慰金は生計維持者の死亡で500万円、その他の方の死亡で250万円が支給されます(災害弔慰金の支給等に関する法律第3条)。災害関連死の認定は市区町村の審査委員会が行いますが、統一基準がなく自治体間で判断にばらつきがあります。認定されなかった場合も、不服申立てや行政訴訟の道が開かれています。ご家族を災害後に亡くされた場合は、まず市区町村の窓口に相談してください。
出典: 内閣府「災害関連死について」、復興庁 東日本大震災における震災関連死の死者数、内閣府 令和6年能登半島地震による被害状況
まとめ:被災後のトラブルを防ぐために
被災後の手続きは14件以上にのぼり、保険・税金・住居・生活支援と幅広い分野にまたがります。制度によって届出先も申請期限も異なるため、全体像を把握することが大切です。てつづきナビでは、災害の種類や被害状況に応じた手続きプランを自動生成し、正しい順番で表示できます。
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